シェイクスピア学会

 

第35回シェイクスピア学会



プログラム

資料

 

1996年10月19日(土)/20日(日)

会場:立命館大学衣笠キャンパス

(〒603-77 京都市北区等持院北町56-1)

 

主催:日本シェイクスピア協会

後援:国際交流基金


案 内

 

* 会場へは、JR京都駅烏丸口より市バス50号系統、特205号系統で約35分、

 「立命館大学前」(終点)にて下車、あるいは市バス52号系統で約40分、

 「立命館大学前」(アカデメイア立命21)にて下車となります(巻末の地図

 をご参照下さい)。

* 学会での開会式、講演、研究発表、セミナーは、キャンパス内の「研心館」

 と「恒心館」(および一部「尽心館」)で行なわれます。

* 受付は「研心館」の入口で開会の30分前から始めます。本年度会費未納の会

 員と新入会員の方は、8,000円(学生会員は5,000円)をお支払い下さい。

* 講演は一般公開です。研究発表、セミナーへの参加は会員に限られますが、

 会員の紹介があれば一般の方も出席できます。

* 懇親会へのご出欠を同封のハガキで9月30日までにお知らせ下さい。ご家族、

 ご友人のご同伴を歓迎します。なお、懇親会会費は、当日(10月19日)あら

 かじめ学会会場受付で申し受けますので、ご注意下さい。

* 20日(日)の昼食は、前もってお弁当を注文していただくことになります。

 日曜日のため、学内の食堂は営業しておりません。同封のハガキにてお弁当

 の要・不要をご記入の上、会場受付で整理券をお求め下さい(\1,000)。

* 19日(土)、20日(日)の学会会場への連絡先は、電話 075-***-**** (立

 命館大学内シェイクスピア学会本部)となりますが、緊急の場合に限って下

 さい。

 

 

日本シェイクスピア協会

〒101 東京都千代田区神田駿河台2-9 研究社ビル501

Tel: 03-3292-1050

Fax: 03-3233-3398

振替口座 00140-8-33142


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プ ロ グ ラ ム

 

10月19日(土)

 

13:00[研心館 641号教室]

開会の辞 日本シェイクスピア協会会長 高橋康也

挨  拶 立命館大学文学部長 長田豊臣

臨時総会

フォーラム

 

14:00 講演[研心館 641号教室]

司会:東京女子大学教授 楠 明子

 'Shakespeare's Peculiarity'

Jonathan Bate

King Alfred Professor of English Literature

The University of Liverpool

 

This paper begins by asking where Shakespeare got the idea for

 the two key techniques of his comedies: the journey to the greenwood

 and the dressing of the heroine in boy's attire. The discussion

 ranges widely across the comedies, with particular attention being

given to _The Two Gentlemen of Verona_ and _As You Like It_. The larger

question then addressed is the nature of Shakespeare's uniqueness--

his "peculiarity". Purchase on this question is gained through a

comparison between _King Lear_ and the old anonymous play of _King

Leir_. The paper thus moves into territory infamously occupied by

Tolstoy. A reading of his essay on 'Shakespeare and the Drama'

would be valuable preparation.

 

15:30 研究発表

第1室[恒心館 741号教室]

司会:東京工業大学助教授 篠崎 実

  1.娼婦の修辞的身体──『尺には尺を』をめぐって

    成城大学非常勤講師 小野俊太郎

  2.『尺には尺を』における

    権力、セクシュアリティ、結婚のイデオロギーについて

   広島大学助教授 中村裕英

 

司会:大妻女子大学教授 栗原 裕

  3.シェイクスピア上演と社会的コンテクスト──バリー・ジャクソンの

    『じゃじゃ馬ならし』(1928)と「モダンガール」の時代

名城大学非常勤講師 小林かおり

  4.サミュエル・フェルプスのシェイクスピア・プロンプトブック

神戸大学教授 田中雅男

 

第2室[恒心館 742号教室]

司会:桜美林大学教授 武井ナヲエ

  1.The Comedy of Errors──愚かさと救済

    大阪市立大学助教授 杉井正史

  2.女の書く歴史──エリザベス・ケアリ『エドワード二世の歴史』

  青山学院大学教授 青山誠子

 

司会:東京大学教授 高村忠明

  3."A good soldier to a lady; but what is he to a lord?"

    ──『空騒ぎ』における笑いの 輪

  大谷大学特別研修員 竹村はるみ

  4.友情・恋愛・教育──『ヴェローナの二紳士』を読み直す

成蹊大学助教授 正岡和恵

 

第3室[恒心館 731号教室]

司会:京都府立大学助教授 佐々木昇二

  1.『ヘンリー五世』とサリカ法

  東京農工大学助教授 森 祐希子

  2.'Shakespeare and the Renaissance Debate

on the Nature of Slavery'

  バーミンガム大学大学院博士課程 Sergio Mazzarelli

 

司会:名古屋大学教授 山田耕士

  3.『あらし』における脇役ゴンザーロ再考

立命館大学助教授 野口忠昭

  4.マーロウの翻訳術

    お茶の水女子大学専任講師 清水徹郎

 

第4室[恒心館 721号教室]

司会:杏林大学教授 川地美子

  1.タークィンの欲望する耳──『ルークリース』再読

   西南学院大学非常勤講師 鶴田 学

  2._Annals of English Drama 975-1700_(第三版)の問題点を検討する

     津田塾大学助教授 村上 健

 

司会:立教大学教授 村上淑郎

  3.オフィーリアの植物から見た _Hamlet_

     熊本大学助教授 樋口康夫

  4.発話者の主体について──_Hamlet_ を中心に

   福岡大学教授 柴田稔彦

 

19:00〜20:30 懇親会

 会場:ホテル・ニュー京都

    〒602 京都市上京区堀川通り丸太町角(二条城北)

Tel: 075-801-2111 / Fax: 075-801-4519

 会費:6,000円

 

 

 

 

[ホテルまでの案内図]

 

 

 

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10月20日(日)

 

10:00 講演[研心館 641号教室]

司会:東北大学助教授 小沢 博

 'Shakespeare and the Art of Revenge'

Lois D. Potter

Ned B. Allen Professor of English

University of Delaware

津田塾大学客員教授

 

The revenger of classical tragedy is an artist of sorts,

attempting to make the punishment fit, or exceed, the initial crime.

For the Renaissance writer of tragedy, art is frequently the means

by which revenge is made possible -- through the play-within-the-

play, of course, but also through painting, writing, and ingenious

devices like the trick chair in Ford's The Broken Heart. But, since

Christianity sees God both as the ultimate artist and the ultimate

revenger, I will examine how Shakespeare's own tragedies (and

comedies) of revenge develop and modify this inherited tradition.

 

 

11:30〜13:00 昼休み

 (お弁当は諒友館1階の生協食堂でお召し上がり下さい。ただし食堂は営業しておりません)

 

13:00〜16:00 セミナー

セミナー1[恒心館 741号教室]

 歴史劇再読──_Henry IV_ の場合

   司会:勝山貴之(同志社大学助教授)

   メンバー:石橋敬太郎(岩手県立盛岡短期大学助教授) 太田一昭(九

   州大学助教授) 小町谷尚子(日本女子大学非常勤講師) 佐野隆弥

   (神戸商科大学助教授) 大和高行(鹿児島大学助教授) 李 春美

   (プール学院短期大学専任講師)

 

セミナー2[恒心館 742号教室]

 Shakespeare and/in Cultural Studies

   司会:浜名恵美(立教女学院短期大学教授)

   メンバー:末廣 幹(東京都立大学専任講師) 高桑陽子(中央大学非

   常勤講師) 谷川二郎(熊本大学教授) 丹羽佐紀(鹿児島大学助教授)

   山本真司(明治大学非常勤講師) 吉原ゆかり(筑紫女学園短期大学専

   任講師) David Taylor(九州大学外国人教師)

   コメンテイター:荒木正純(筑波大学教授)

 

セミナー3[尽心館地下コンピュータ教室](別棟ですのでご注意下さい)

 シェイクスピア研究とコンピュータ

   司会:境野直樹(岩手大学助教授)

   メンバー:岡本靖正(東京学芸大学教授) 加藤行夫(筑波大学教授)

   草薙太郎(富山大学助教授) 鈴木英夫(東京大学教授) 鳴島史之

   (北見工業大学助教授) 赤間 亮(立命館大学助教授)

 

セミナー4[恒心館 731号教室]

 今、内と外からのシェイクスピア──翻訳・翻案・国際交流

   司会:安西徹雄(上智大学教授)

   メンバー:高橋康也(昭和女子大学教授) 松岡和子(東京医科歯科大

   学教授) 水崎野里子(和洋女子大学非常勤講師) 南 隆太(名古屋

   大学専任講師) 広川 治(駒澤大学非常勤講師) 藤原博道(神奈川

   大学非常勤講師) 

 

セミナー5[恒心館 721号教室]

 シェイクスピアとイコノロジー

   司会:藤田 実(関西大学教授)

   メンバー:今西雅章(帝塚山学院大学教授) 岩崎宗治(南山大学教授)

   上野美子(東京都立大学教授) 門野 泉(清泉女子大学助教授) 

   川井万里子(東京経済大学助教授) 鈴木繁夫(名古屋大学助教授)

   前川正子(津田塾大学教授) 松田美作子(日本女子大学非常勤講師)

   吉中孝志(関西大学助教授)

 


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[資料]

研究発表要旨

 

 娼婦の修辞的身体──『尺には尺を』をめぐって

 

   成城大学非常勤講師 小野俊太郎

 

 本発表では、『尺には尺を』のなかで今まで注目されることが少なかった「娼婦」に焦点をあて、それが果たす役割を考察する。ただしその際には Overdone のように形象化された娼婦ばかりでなく、登場人物たちの台詞に分散している修辞的な身体としての婦婦にも目を向ける。その作業を通じて、大公の権力、Isabella の女性性といった形でばらばらに論じられてきた問題をつなげる可能性を探りたい。また時間に余裕があれば、この劇を「都市喜劇」や「娼婦を主人公にした劇の流行」という問題設定と関連づけてみたい。

 

 

 『尺には尺を』における

 権力、セクシュアリティ、結婚のイデオロギーについて

 

   広島大学助教授 中村裕英

 

 権力によるセクシュアリティの統制の必要性はこの劇の主要なテーマであるということは誰もが認めることであろう.三幕二場では変装した公爵が次々に領民達の性的逸脱を目撃し、"Still thus, and thus: still worse!"(III.iii.51)と嘆いている。こうした道徳的腐敗の状況では観客はアンジェロのような厳格な法の適用もやむを得ないと感じる。にもかかわらずこの劇はセクシュアリティに豊饒さや陽気さを与え、統制そのものに揶揄や批判を浴びせかけている。このような劇の構造を J. Dollimore のように「転位」(displacement)として理解することも可能である。即ち本来処罰の対象になるはずの社会秩序の混乱がセクシュアリティに転位され、それによって当時の社会秩序の混乱に対する権力の介入が合法化されていると。しかしこの劇と社会の関係においてはむしろ当時台頭してきたプロテスタントの結婚観や、それを規定する教会法の制定を見たほうが、この劇を理解する上では有効であると思われる。この視点からみるとむしろ権力のセクシュアリティヘの規制自体の不当性が浮かび上がってくるのではないか。

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 シェイクスピア上演と社会的コンテクスト──バリー・ジャクソンの

 『じゃじゃ馬ならし』(1928)と「モダンガール」の時代

 

名城大学非常勤講師 小林かおり

 

 シェイクスピア上演とは一時代の社会的・文化的所産であると同時に、「我々自身」をあらわす鏡である。たとえば、『じゃじゃ馬ならし』の女主人公ケイトはそれぞれの時代の父権性社会が規定する「女らしさ」を常に体現してした。本発表では1928年にバリー・ジャクシンによって演出された『じゃじゃ馬ならし』のケイト像を、「モダンガール」の時代と呼ばれた1920年代に女性たちがおかれていた社会的背景や、同時代の文学、図像、映画、広告の中に描かれた女性の表象などに現れるジェンダー観と比較して考察する。

 

 

 サミュエル・フェルプスのシェイクスピア・プロンプトブック

 

    神戸大学教授 田中雅男

 

 劇場規制法の制定(1843)によって、勅許劇場の制度が廃止となり、シェイクスピアを含むいわゆる正劇は、他の劇場においても、上演が可能となった。Samuel Phelps は、その翌年、サドラーズ・ウエルズ劇場の共同支配人となり、その後、18年間に、シェイクスピアのほぼ全作品(『ヘンリー六世』1、2、3部、『リチャード二世』、『ペリクリーズ』を除く)を上演した。もちろん、シェイクスピア以外の旧劇新劇の上演を折り混ぜてのことではあったが、彼のこの上演は、とりわけ地方のストック・カンパニーの活動に、大いなる刺激となった。

 シェイクスピア中央図書館には、Phelps を下敷としたプロンプトブックの一部が収納されている。記念劇場当初に、招かれて舞台に立った Barry Sullivan, William Creswick らの所有になるものである。それらは、すペて記念劇場における上演用に使用されたわけではないが、Phelps の影響を伺い知る上で興味深い。そのうち、主人公中心に、Colley Cibber によって歪められた『リチャード三世』をとりあげ、アンサンブルを大切にし、原作復元に努力する Phelps の姿勢とその影響を辿ってみることにしたい。

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 _The Comedy of Errors_──愚かさと救済

 

 大阪市立大学助教授 杉井正史

 

 Shakespeare の _The Comedy of Errors_ の最初の場面で、自分が Ephesus にやってきた由来を公爵に語る Egeon は、かつての妻の妊娠を "pleasing punishment" と言う。最後の場面で Emilia は、家族離散の苦しみを「33年」の陣痛に喩える。なぜ妻が「罰」を受け、陣痛の期間がそれまでの劇の説明と矛盾する「33年」なのか。どたばた喜劇と思える劇も意外に深刻な意味を持っているのかもしれない。Ephesus という舞台、ろばや Adam への言及、キリストの受難や降誕の暗示をどう考えるのか。また、Gray's Inn が最初の上演場所と言われるこの劇では、法律的比喩が驚くほど多い。これはどういう役割を持つのか。発表では "doom" 、"redeem"、"ransom"、"debt"、"satisfaction" などの法律的・金銭的比喩を手がかりに、この劇での聖書への言及の意味を考察してみたい。

 

 

 女の書く歴史──エリザベス・ケアリ『エドワード二世の歴史』

 

  青山学院大学教授 青山誠子

 

 エドワード二世の治世については、16-17世紀英国においても歴史家や文人たちが関心を寄せた。マーロウが彼の劇『エドワード二世』を書いてから約35年後、一人の女性がこの題材を取り上げ、歴史的物語を書いた。フォークランド子爵夫人エリザベス・ケアリによる _The History of the Life, Reign, and Death of Edward II_ (1680, 死後出版)は、女の視点から、歴史、政治、そして男性の権威を問い直そうとした作品として注目すべきものである。カトリックへの改宗後 1627年に、国王や夫らによるさまざまな圧力のなかで執筆したケアリの場合を通して、女性の文筆の意義を考えてみたい。

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 "A good soldier to a lady; but what is he to a lord?"

 ──『空騒ぎ』における笑いの輪(ネットワーク)[ルビ]

 

大谷大学特別研修員 竹村はるみ

 

 性差や階級差に基づく行動規範が重視されたルネサンス期においては、冗談や笑いに関しても様々な約束事が設けられた。風刺を好む傾向が強い当時の社会で、からかいの対象となるのは社会規範から逸脱した者であった。冗談は、社会に鬱積する不満や緊張の捌け口であり、また笑いは同じ価値観を有する者を結合する、いわば接合材の役目を果たした。『空騒ぎ』が、女性や結婚をめぐる嘲弄や諧謔に満ちていることは指摘するまでもない。しかし、冗談を仕掛ける者、それを聞いて笑う者、そして笑われる者という三者を軸に構成される笑いの輪(ネットワーク)[ルビ]が劇中いかに機能しているかという問題は、これまであまり論じられてこなかったように思われる。本論では、この劇の活力になっている機知のやりとりを、笑いを媒介にして構築される社会的な枠組みに位置づけて考察していきたい。

 

 

 友情・恋愛・教育──『ヴェローナの二紳士』を読み直す

 

   成蹊大学助教授 正岡和恵

 

 『ヴェローナの二紳士』というタイトルは示唆的である。それは、この芝居が、恋愛ではなく男同士の結びつきを中心に据え、さらには、紳士とは何か、若者はいかにして紳士になるのかと問いかけていることを暗示しているからである。友情・恋愛・若者の教育──この芝居は、シェイクスピア喜劇の憂慮と関心が集約された原型的な作品でありながら、恋愛喜劇への未熟な試みとされ、等閑視されてきた。それはおそらく、求愛から結婚へという異性愛のプロットを重視する、エディプス的な読み方があてはめられてきたからだろう。ここでは、ホモ・エロティツクな欲求と異性愛への不安が交錯する、いわは「喜劇の前エディプス的状況」に読み方の焦点をずらすことによって、この芝居の恋愛喜劇としてのプロトタイプ性を探ってみたい。

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 『ヘンリー五世』とサリカ法

 

東京農工大学助教授 森 祐希子

 

 『ヘンリー5世』の1幕2場では、サリカ法に基づいて、ヘンリーのフランス王位請求の正当性が裏付けされている。劇中での法律解釈は、サリカ法はフランス国内には適用されないという結論に至るもので、これ自体はホリンシェッドの記述そのままだ。だがここで爼上にのぼるサリカ法は、1580年代以降、フランスの宗教戦争の中でしばしばその解釈が揺れ動いた法律だった。

 即位以来イギリスが支援し続けてきたアンリ4世も、自らの政治的立場の変化に伴ってこの法に対する解釈を転換していた。そのアンリがついにスペインと和平を結んだのは、『ヘンリー5世』上演の前年のことだ。このような同時代的社会状況の中でのサリカ法に目を向けることで、作品中でのサリカ法議論を読み直してみたい。

 

 

 'Shakespeare and the Renaissance Debate on the Nature of Slavery'

 

  バーミンガム大学大学院博士課程 Sergio Mazzarelli

 

The Renaissance, coinciding with the European conquest of the New World, saw a major revival of the Aristotelian theory of natural slavery. This racist theory constructed slavery as the condition befitting certain populations that were supposed to be inferior to others by nature. It was opposed to another theory, widely accepted in the Middle Ages, according to which slavery had no basis in nature, but owed its existence only to human law. In Elizabethn England, the cause of natural slavery was championed by the Oxford philosopher, John Case (?1540-1600), who defended it in his treatise on political theory, Sphaera Civitatis (1588). Case's work--although hitherto neglected--is a very important source for the study of Elizabethan ideology. This paper will refer to Sphaera Civitatis and other relevant documents in order to illuminate, insofar as attitudes to slavery are concerned, the complex cultural context in which Shakespeare's plays were written and performed. The same attitudes will then be traced in a sample of occurrences of the word "slave(s)" in the Shakespearean canon. Far from being a naive attempt to identify a single Shakespearean message, such an analysis wants to offer a contribution, however small, to the exploration of the different perspectives that frame the plays.

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 『あらし』における脇役ゴンザーロ再考

 

 立命館大学助教授 野口忠昭

 

 劇中の「あらし」という現象とプロスペローの魔術の関連を明らかにしながら文化唯物論の提示した『あらし』に対する基本的視座を検討したい。孤島に着いた人物達の中で唯一ヨーロッパ人のものの見方から自分を切り離し、虚心に帰った目で島の状況を見るゴンザーロにプロスペロー理解の鍵を求めながら、孤島を植民地化するための手段と映るプロスペローの魔術は、本当にそのような暴力的意味を帯びているのかどうか。プロスペローは植民地主義者なのかどうか。孤島の存在に対するプロスペローの見方は植民地主義者のそれなのかどうか。こういった問いをプロスペローがゴンザーロに注意を払い、共鳴することにヒントを得て考えようと思う。そして、マイナーな役柄に過ぎないゴンザーロという人物とプロスペローの関係を明確にし、その脇役の本劇中で果たす意義を問うてみたい。

 

 

 マーロウの翻訳術

 

  お茶の水女子大学専任講師 清水徹郎

 

 マーロウが古典文学から英語に翻訳したものに、まずオウィディウスの『恋愛詩集』とルカーヌス第1巻がある。また『ダイドウの悲劇』はウェルギリウス叙事詩の一部分を劇場向けに英語で再構成したものであり、『ヒーロウとレアンダー』も広義において翻訳の延長線上にある。マーロウの翻訳の仕事において注目すべきは、原典からの大胆なずれであり、誤訳であり、様式と構想の大胆さであろう。本発表では、『恋愛詩集』から『ダイドウ』までを中心にその翻訳の特徴を再検討し、詩人かつ創作家たるべきマーロウにとって読者(そしておそらく観客)とは何であったか、またマーロウは古代詩人あるいは文学的伝統に対する自身の関わりをどう捉えていたか、などといった問題を考えてみたい。 

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 タークィンの欲望する耳──『ルークリース』再読

 

 西南学院大学非常勤講師 鶴田 学

 

 古代ローマ社会で、異性愛の歪んだ暴力として告発されるべくして公にされたルクレティアの陵辱。だが、物語詩『ルークリース』におけるタークィンの欲望については、いまだに解剖し批判すべき余地が残されている。本研究発表では、詩のなかのいくつかの解釈上の問題を含んだ修辞、比喩、奇想の再検証を行う。個々の修辞の語の水準での読み直しは、詩の主題(モチーフ)[ルビ]の再読へと導かれ、一筋縄ではいかない屈折した欲望の概念の再定義を迫るだろう。コラタインの魅惑的な語りによって情欲の妄想に取りつかれたタークィンを常軌を逸した行動に走らせる衝動が男性間の競合や階級差の問題であること、あるいは「貞淑さ」という女性に押しつけられた道徳が事実上男性による女性の所有の問題の裏返しであることを暴く試みが本発表の目的である。コラタインの所有権の主張には、すでに潜在的他者タークィンによる侵犯、ルークリースの「砦」への侵入が予告されている。

 

 

 _Annals of English Drama 975-1700_(第三版)の問題点を検討する

 

 津田塾大学助教授 村上 健

 

 S.S.Wagonheim の改訂による _Annals of English Drama 975-1700_ の第三版が、1989年に Routledge から出版された。A.Harbage の初版 (Univ.of Pennsylvania Press,1940)、S. Schoenbaum による改訂版(Methuen,1964)、同じく Schoenbaum による二度の Supplement 出版(Northwestern Univ., 1966 & 1970)を経た、実質的に25年振りの大改訂である。本来ならば慶事として大きな話題となるはずだが、既に _Shakespeare Quarterly_, Vol.42,No.2 (1991) の書評で Anne Lancashire が厳しく指摘した通り、結果は惨憺たる有様で、英米の主要学術雑誌の書評欄ではまったく無視されることになった。

 一方、この第三改訂版については、日本ではほとんど話題にさえされていないように見える。今、あらためて第三版の問題点を具体的に検証することで、この書物が本来持つペき重要性やこの四半世紀の英国演劇研究の成果について、もう一度考え直してみたい。

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 オフィーリアの植物から見た _Hamlet_

   熊本大学助教授 樋口康夫

 

 今回の発表では、オフィーリアに関わる植物、取り分け4幕5場の有名な彼女の花々の分配のシーンと、ガートルードによる4幕7場の彼女の死について描写された部分に見られる植物を選び、Henry Lyte,John Gerard,John Parkinson 等による当時の植物誌(Herbal)を参考にして、再度吟味してみる。再度というのも、この植物とシェークスピアの作品との関係については、19世紀末から今世紀の初頭までは盛んに論議されてきたからであり、蛇足にも思えるが、Harold Jenkins のアーデン版のテキストや、オックスフォード版のそれを見ても未だ判然としない箇所も多々あるようで、今回再び取り上げてみる事とした。手順としては、先ず、上で触れた植物誌に基づいて、花期、生息環境などを詳細に調べた後に、そこで得られた知見を手がかりにこの劇の解釈を試みる予定である。

 

 

 発話者の主体について── _Hamlet_ を中心に

 

    福岡大学教授 柴田稔彦

 

 劇場で、たとえば、"To be or not to be..." という台詞が発されるとき、だれがそれをしゃべっているだろうということ考えて見ると、それは Richard Burbage でもあり、Hamlet という登場人物でもあり、作者でもあるということになるが、元々それが存在しなければことが始まらなかったという意味では、作者がその源であると一応は言える。このことは女優や女性の登場人物の場合にも基本的に同じである。しかし、作者が源であるということについては、彼が用いる言語をはじめ、材源にしろ、演劇伝統にしろ、劇および劇の場を構成する諸々の要素にしろ、一つとして独立した個に発するものはない。他方、登場人物に作者が自己のなにかを置き換えるとき、そこに「キャラクター」をめぐる曖昧な事態が生じている。そのあたりの劇主体の流動性のありようをどう把握したらよいか、考えてみたい。

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セミナー指針

 

 

セミナー1

 歴史劇再読──_Henry IV_ の場合

 

     司会:同志社大学助教授 勝山貴之

 Greenblatt が論文"Invisible bullets"において作品 Henry IV の政治性を問うて早くも10年という歳月がたつ。この間、新歴史主義はひろく英文学研究に浸透し、批評の一方法としては特権的地位すら獲得した感がある。しかし、こうした動向のなかで、新歴史主義とは直接交渉のない研究方法や、政治とは必ずしも結びつかない作品解釈が等閑視され脇に追いやられてきたことも事実である。このセミナーでは、新歴史主義批評を視野に入れながらも、敢えてそれとは異なる問題意識をもって Henry IV にアプローチし、作品解釈の新たな方法と可能性を模索してみたい。

 

 

セミナー2

 Shakespeare and / in Cultural Studies

 

 司会:立教女学院短期大学教授 浜名恵美

 躍進するカルチュラル・スタディーズ(以下、CSと略記)の問題群は、政治、経済、地理、歴史、(ポスト/ネオ)植民地主義、(超)国民性、世界化、ジェンダー、人種、階級、民族など多岐にわたる。今回のセミナーでは、次のようなテーマに関する討論を通して、シェイクスピア批評におけるCSのマッピングと今後の展望を確認することにしたい。 CSの特色、可能性、困難。CSと既成の諸批評には、どのような関連、差異、緊張があるのか? CSの政治的批判力は、シェイクスピアのもつ「文化的権威」に向けられるが、それはどのような影響や効果をもたらすのか? そうした影響や効果は、例えば、欧米、アジアとアフリカの旧植民地諸国、日本、オーストラリアなどで、どのような差異があるのか? CSは、上演や教育の現場で、どのような問題に直面するのか? 日本の研究者に求められる姿勢や課題があるとすれば、それは何か?

 

 

セミナー3

 シェイクスピア研究とコンピュータ

 

  司会:岩手大学助教授 境野直樹

 コンピュータが急速に普及しつつあるいま、シェイクスピア研究は新しい局面を迎えている。文体分析による作者同定論争はcanonの見直しに少なからぬ影響を与えるし、複数テキストデータの大量高速処理による細部の検討から新たな読みの可能性が鮮やかに浮かび上がる。瞬時に、かつ多角的にテクストが解析されるとき、そこにはこれまで見たことのないシェイクスピアの姿が現れてくるだろう。膨大なデータを縦横に処理するときに考慮されるべき諸問題、すなわちデータ解析の一般的方法論、扱われるテクストそのものの妥当性やauthorship をめぐる政治性の問題、エリザベス朝ト書きの網羅的調査による上演形態の復元、さらにコンピュータ・ネットワークを介する演劇テクストのプレゼンテーションが開示する、メディアと権力の問題などを、それぞれ具体例を挙げつつ論じたい。さらに、同様にコンピュータを使った研究が進められている日本演劇研究、とりわけ歌舞伎資料研究の立場からの報告をも交えて考察する場を提供したい。なお、本セミナーは特別にコンピュータ演習室で行なわれ、出席者は各自のディスプレイを通して実演に立ち会うことができる。

 

 

セミナー4

 今、内と外からのシェイクスピア──翻訳・翻案・国際交流

 

   司会:上智大学教授 安西徹雄

 四つのトピックをめぐって討論を進めたい。(カッコ内は担当者、敬称略)

(1)LA Congress の報告を中心に、最近、日本のシェイクスピアについて、海外の関心が特に高まっている現状、その背景と意味について。(高橋)

(2)しかもその関心は、現在ではすでに蜷川、鈴木世代から、野田秀樹以後の活動に移っている。同じく Congress で見られたこうした現象の分析。(南)

(3)二つの世代間の連続と断絶の諸相を、「日本的」伝統にたいする意識、シェイクスピアの古典性にたいする認識、text と performance など、根本的な演劇観にかかわる論点を通じて討論する。(水崎、広川、藤原、および全員)

(4)新しい全集翻訳を始める意義──これまでの討論を通じて分析してきた、新しいシェイクスピア情況を踏まえて。(松岡)

 

 

セミナー5

 シェイクスピアとイコノロジー

 

   司会:関西大学教授 藤田 実

 セミナー・メンバーの数名に、シェイクスピアおよびその同時代の演劇のパフォーマンスを、plotを軸としてではなく、sceneの結合として考察することを依頼する。その報告をもとに、特にエリザベス朝の舞台の空間で構成される「場面」について、各セミナー・メンバーからのコメントおよび討議が加えられる。ここではemblem, dumb show, stage tableauあるいは舞台の建築的構造などの視覚的造形の角度から、劇の主題や劇作家の意図が有効に伝達される相が論じられる。さらにルネッサンス時代における「視覚」の深い意味が報告と討論に加えられる。衣装・装飾・紋章・髪型・仮面・肖像・祝宴・戴冠式・凱旋式・動物・植物・身体・運動・天候等々、およそ「見る」という行為や経験にかかわるもの、視覚を通して象徴や寓意の表現に参与するものの数々に言及がなされるであろう。ルネッサンス絵画におけるパノフスキーの場合と同様に、舞台に展開する「場面」の視覚的造形と劇の中心主題を、同時代の精神史と重ね合わせて読み解く「イコノロジー」の方法の可能性を、出来る限り多角的に討論する予定である。

 

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会場案内

 

 

10月19日(土) 10月20日(日)

 

開会式 研心館 641号教室 講 演 研心館 641号教室

臨時総会 同上 セミナー

フォーラム 同上 第1室 恒心館 741号教室

講 演 同上 第2室 恒心館 742号教室

研究発表 第3室 尽心館 地下コンピュータ教室

第1室 恒心館 741号教室 第4室 恒心館 731号教室

第2室 恒心館 742号教室 第5室 恒心館 721号教室

第3室 恒心館 731号教室

第4室 恒心館 721号教室

会員控室・ 会員控室・

休憩所 諒友館 1F 生協食堂 休憩所 諒友館 1F 生協食堂

懇親会 ホテル・ニュー京都

 

 

 

[教室配置図]

 

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[大学案内図]

 

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